男勝りの海賊姫による苦悩や激闘を描いた感動の歴史小説【村上海賊の娘(著:和田竜)】


概要

2014年の本屋大賞を受賞した本作。著者の和田竜氏は「のぼうの城」等を手掛けた歴史小説家である。
和田竜氏の書く小説は初めて読んだのだが、一般的な歴史小説と比較してエンターテイメント性が高く、現代小説を読んでいるかのような読み易さがある。物語も、単に歴史をなぞるだけでなく、読者を引き込むような文体となっていて面白い。
本書「村上海賊の娘」のあらすじに触れておくと、時代背景としては1500年の後半、戦国時代の後期にあたる。
この時代は、全国統一に向けて織田信長が勢いを増している頃であり、本書で描かれる時代はまさに全国統一の足掛かりの一つとして、織田信長が浄土真宗の本願寺法主顕如が立て篭もっている大阪本願寺を攻め落とそうとする戦である。俗に言う「石山合戦」だ。
石山合戦自体は、1570年10月11日から1580年9月10日までの約10年続くのだが、この合戦の内、1576年に勃発した「第一次木津川口海戦」を舞台としている。
第一次木津川海戦については、Wikipedeiaから概要を抜粋しているので、以下の引用を見て欲しい。
天正4年(1576年)春、顕如は毛利輝元に庇護されていた将軍足利義昭と与して三たび挙兵した。信長は4月14日、明智光秀らに命じて石山本願寺を三方から包囲した。しかし、包囲後も本願寺は楼岸(現大阪市中央区)や木津(同浪速区)から海上を経由して弾薬・兵糧を補給しており、織田軍が木津を攻めると、本願寺軍は逆に1万を超える軍勢をもって木津の織田軍を蹴散らし、天王寺砦付近まで攻め入った(この時に包囲軍の主将であった塙直政が戦死している)。危機に陥った光秀は砦に立て篭もり、信長に救援を要請した。
この敗報を聞いた信長は、すぐさま諸国へ陣触れを発したが、突然のことであるために兵の集結が遅かった。そのため信長は痺れを切らし、3000ばかりの兵を連れて天王寺を包囲している15000余の本願寺軍に攻めかかった。また、包囲を突破して砦に入ると、すぐさま光秀はじめとする砦内の兵等と合流して討って出た。そのため、篭城策を取るものと思い込んでいた本願寺軍は浮き足立って敗走し、石山本願寺に退却した(天王寺合戦)。その後、信長は石山本願寺の四方に付城を住吉の浜手に要害を設け、塙直政の後任の司令官に佐久間信盛を任命して本願寺を完全包囲下に置いた。
経済的に封鎖された本願寺は、毛利輝元に援助を要請した。輝元は要請に応じ、7月15日に村上水軍など毛利水軍の船700から800艘(実際は600艘程度と言われる)が兵糧・弾薬を運ぶために大坂の海上に現れた。織田軍はすぐさま、配下の九鬼水軍など300余艘で木津川河口を封じたが、毛利水軍は数の利を生かして焙烙火矢で織田軍の船を焼き払い、大勝して本願寺に兵糧・弾薬を届けた(第一次木津川口海戦)。信長は仕方なく、三方の監視のみを強化して一旦兵を引いた。
上記にある通り、本願寺に兵糧や弾薬を届けた「村上水軍」こそが、本書「村上海賊」のことである。
本書のタイトルでもある村上海賊の娘とは、当時瀬戸内海を牛耳っていた村上海賊の当主である村上武吉の娘「景(きょう)」のことなのだが、「景」は西洋の女性の様な美しさと、瀬戸内海で海賊働きをする男勝りな性格を持ち合わせた女性であったそう。
この「景」の美貌は、当時の日本では醜女(しこめ)と呼ばれ、男から相手にされない部類だったようだ。しかし、当時西洋と交流のあった大坂あたりでは西洋人の美しさが認められているという噂を聞きつけ、とある理由で大坂へ向かうと「べっぴんさん」と男たちからもてはやされ、いい気になってくる。
その後大坂で過ごしている時に、眼前で本願寺勢と織田勢の戦を間近で見た「景」は、男たちの戦を肌で感じて自分の甘さや弱さを知り、心底落ち込んで実家へ帰ることになる。
実家に帰った景は、しばらく大人しく過ごしていたのだが、大坂へ残した本願寺勢たちを救うべく一人で大坂の織田勢へ立ち向かっていく。

感想

女性が主役となる戦国歴史物語は珍しいが、女性が主役だからといって戦国時代の荒々しさがぼやけてしまうことはない。むしろ、戦国時代の荒々しさがありありと伝わってくる。
小説の冒頭では、女性である「景」が自分たちの領域に入ってきたよそ者の首を、躊躇なく切り落とすシーンが繰り広げられる。
そんな「景」を荒くれ者の海賊衆が慕って着いてくる様子等も面白味があり、現代に求められる女性リーダーの資質を持ち合わせているのかもしれない。
「景」は理性よりも本能や感情で行動する女性である。政治的な判断や理性的な考え等は関係なく、自分自身の正義に基づいて行動していく。そのため、一見すると破天荒な行動に見えるが、実は彼女自身の行動は一貫しており、人を騙したり欺いたりすることに対して強い怒りの念を抱き行動に移していく。
怒り、悩み、泣き、落ち込み、笑い、周囲をどんどん魅了していく様は、読んでいて感情移入しやすく、痛快だ。
声を出して笑ってしまう描写もれば、小説のクライマックスでは思わず泣かされてしまった。
また、小説の中には、実際に参考にした当時の文献の引用が多くみられる。特に「信長公記」と呼ばれる、織田信長の一代を記した文献の本文が引用されている等、歴史を知るという意味で非常に参考になる部分も多かった。(この「信長公記」は江戸時代に編纂された歴史文献で、信長を知るための信頼の高い史料とされている)
歴史小説が好きな人だけでなく、現代エンターテイメント小説が好きな人にとっても、十分満足の出来る感動的な歴史小説であることは間違いない。
村上海賊の娘「景」の熱い気持ちに振り回されてみては如何だろうか。