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自分の世界に入り込みたくなる長編小説【ねじまき鳥クロニクル(著:村上春樹)】

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

はじめに

ふと、自分の世界に入り込んで物思いに耽りたいと思った時、村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」を読みたくなる。

村上春樹作品自体が往々にしてそうであるが、主人公の思考や趣味、落ち着いた雰囲気等がとても好きなのだ。
この「ねじまき鳥クロニクル」の主人公「オカダトオル」も、クラシック音楽を好み(あらゆる所で流れるBGMの曲名が分かる)、プールで泳ぐことを好み、ビールとウイスキーを好み、簡単な料理を自分でさっと作ることができ、感情に支配されることは殆どなく論理的であり、周りとは少し変わった感覚や価値観を持ち、そして物思いに耽ることを好む。

この本の冒頭は、次の文章で始める。

台所でスパゲティーをゆでているときに、電話がかかってきた。僕はFM放送にあわせてロッシーニの『泥棒かささぎ』の序曲を口笛で吹いていた。スパゲティーをゆでるにはまずうってつけの音楽だった。

派手さはない普通の日常であるのに、とても静かでお洒落な空気を発している。
こういった一連の所作が、とても心地良く、読み出すと一気に世界に引きずり込まれていく。
このような表現は他の村上作品でも同じなのだが、特に「ねじまき鳥クロニクル」は主人公が自分自身の精神世界と向き合うシーンが中心に構成されていることもあって、冒頭にも記載した通り「自分の世界に入り込んで物思いに耽りたいと思った時」に、まさにうってつけの小説なのだ。

感想

さて物語についての感想なのだが、結局のところ、この本の主張というか本質は理解できていない。既に本書を何度も読んでいるのだが、分かりそうで、分からない。

物語は終始、暴力的な事件や夢、回想で語られる。
特に主人公が出会う人物の一人である「間宮中尉」がノモンハン戦争を回想するシーンはとてもリアルな暴力シーンが多く、思わず目を瞑りたくなるような描写も多い。(目を瞑ったところで、脳裏にはありありとそのシーンが焼きついているのだが)
他にも、身体的または精神的な極限状態に陥る場面も多く、その極限状態をとても細部までリアルに描写されており、その状態を疑似体験することができる。

ストーリーとしては、主人公である「オカダトオル」の周囲に色々な異変が起きていくことで始まる。例えば、オカダトオルと妻のクミコが飼っていた猫が突然いなくなる。妻のクミコがいなくなる。知らない女から電話がかかってくる。変な夢を見る。
こういった様々な異変に向き合う(解決する)ため、主人公は自分自身と向き合うために自宅付近にある井戸の底でひたすら思考し、「向こう側」の世界を探索する。そして、その「向こう側」の世界は現実と何かしらの相関関係があることに気付いていく。

この小説は、目の前の個別の事象が完全に解決するものではない。例えば、家を出た妻のクミコは帰ってこない。(長い長い将来に、もしかしたら帰ってくるのかもしれない、という予感はするが)
ただ、主人公自身に次々と起きる異変の根本となる原因については、主人公自身の手で解決することができた。もしかすると、家を出てしまった妻と共同で解決したのかもしれない。(ように思える)
というように、この小説の感想を書こうとすると、「予感」や「と思う」等、すごく抽象的なことしか書くことができない。だから、感想を率直に述べるというのがすごく難しいのだ。(というのが感想なのかもしれない)

やはり、結局この本の本論というか、言いたいことについては綺麗に理解できていない。
ただ、この先、僕が生きていく内に、恐らくまだ複数回この小説を読むことになるだろう。僕が生きていく中で、色々な出来事に触れ、様々なことを感じ、思考を重ねていくにつれて、この小説を読んだ感想が変わってくるような気がする。(少なくとも、最初に読んだ10年以上前と、今回読んだ時の小説の印象は異なる)村上春樹が考えた世界、伝えようと思ったこと、そういったものに少しずつ近づけるのではないかという気がする。
この小説は、そうやって長い時間(何年、何十年)をかけて、じっくりと繰り返し読むことで、ようやく自分なりに理解することができる類の小説なのかもしれない。

また読んだことのない人は、ぜひ独特の村上春樹の世界を味わってみて欲しい。

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

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